日本の所得税、住民税、相続税、贈与税が課税判断では、居住・非居住を決める重要な判断は「住所」」です。
「住所」の判定で争ったケースとして、親が海外にいる子へ生前贈与したケースがあります。消費者金融の武富士オーナー(親)がオランダ法人の株式を子に生前贈与した際、その子の「住所」が日本と香港のどちらにあるのかが争われた事例です。
平成23年の最高裁の判断は、主観的な租税回避目的よりも客観的な香港滞在日数を重視し、原告勝訴となりました。結果、利息を含めて約2000億円が還付されました。
このことからも「住所」の判定はとても重要であることがわかります。
☆過去の裁判における「住所」の判断基準
①住居がどこに所在するか
②どこで職業に就いているか
③生計を共にする親族の居所がどこにあるか
④資産がどこに存在するか
①から④を総合的に勘案して判断するが、「住所」がどこであるかが課税に大きく影響します。
<所得税・住民税>
所得税納税者は、大きく居住者と非居住者に区分され、居住者はさらに永住者と非永住者に区分されます。
居住者は世界中で得られる所得に対して課税されるのに対し、非居住者は日本国内で得られる所得に対してのみ課税されます。
住民税は、非居住者には課税されませんが、毎年1月1日の住所地で判定されます。
◆課税所得の範囲(所法7①)
非永住者以外の居住者:すべての所得
非永住者:国内源泉所得(所法161)+国内において支払われたもの+国外から送金されたもの
非居住者:国内源泉所得(所法164)のみ
◆居住者と非居住者の定義
居住者=国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて一年以上居所を有する個人(所法2三)
非居住者=居住者以外の個人(所法2五)
◆住所・居所とは
法に規定する住所とは各人の生活の本拠をいい、生活の本拠であるかどうかは客観的事実によつて判定する(所基通2-1)。
→住民基本台帳に登録されている住所(形式基準)で判断するのではなく、実質的に「生活の本拠」としている場所を住所と考えます。
→「生活の本拠」がどこであるかについては、客観的事実から判断する。
居所については、納得のいく定義が見つからない。住所を実質基準で判断することと、所基通2-2の文言から考えると、「住むために確保している物理的な施設が所在する場所」とでも解釈するのか。居所についても『住むため』という実質判断が必要です。
◆「生活の本拠」を判定する客観的事実
居住者・非居住者の区別は実質判断なので、客観的事実を整えれば、非居住者と判定されるというわけではありません。
(所基通2-1の逐条解説)
本通達でいう「客観的事実」には、例えば、住居、職業、資産の所在、親族の居住状況、国籍などが挙げられます。
☆所得税における課税所得の範囲
・居住者(永住者)=全世界所得
・居住者(非永住者)=日本国内の所得、海外の所得(国内払い、国内送金分に限る)
・非居住者=日本国内の所得のみ
ちなみに、非永住者とは、居住者のうち、日本国籍を有しておらず、かつ過去10年以内において国内に住所または居所を有していた期間が5年以下である個人をいいます。
<相続税・贈与税>
相続税と贈与税は、住所、国籍、5年ルールによって区分されます。
財産をもらう人が日本国籍の場合、相続人・受贈者(もらう人)と被相続人・贈与者(あげる人)の双方が5年を超えて日本に住所がないときには、日本国内の財産のみに対して課税され、それ以外は世界中の財産に対して課税されます。
☆5000万円超の財産は課税当局へ報告する義務がある。
以前は、日本の課税当局が他国の財産をすべて把握することはできず、実際に見逃されたケースもありました。しかし、最近は課税当局は海外の財産の把握のために体制を強化しています。
平成24年度税制改正では、海外の財産を5000万円を超えて持っている人は、課税当局へ報告しなければならない制度ができました。この制度は平成25年12月31日時点の財産から適用されます。